2014年4月13日日曜日

旅の思い出を描く

エスキース(オイル オン ペーパー)
旅の思い出を絵にすることは、絵を描く大きな喜びの一つです。

今回紹介する制作過程は、Yさんが数年前に行ったヴェネチアの思い出を、スケッチと写真をもとに教室で描かれたものです。

構図を決めたデッサンにマス目を入れて、キャンバスに転写しました。
現実に見た風景の色合いを、アトリエの中で記憶と写真を頼りに再現することは、非常に難しい作業です。大概の場合実感の伴わない単調な色になりがちです。 そこで今回は、あえて現実の色の再現を目差さず、暖色と寒色の形の組み合わせを造形上のテーマにして制作を試みてもらいました。
まずは、暖色の絵具だけで明暗をつけていきました。使用した絵具は、イエローオーカー、レッドオーカー、ローシェンナ、バーントアンバー、ネープルスイエロー、バーミリオンです。


暖色だけによる制作がほぼ出来上がったところです。この時のコツは、対象の固有色を無理に出そうとせずに、暖色の中にも冷ための色と暖かめの色があることを利用して、光と影や距離感に応じてそれらを使い分ける事です。



次に寒色を置いていきます。使った絵具は、セルリアンブルー、コバルトブルー、ウルトラマリン、ヴィリジャン、ローアンバー、ランプブラックです。

最も面積の大きい空から決めていき、それを基準にバランスを考えながら他の寒色の領域を配置していきました。


暖色の上に寒色を重ねる時は、べた塗りにならないようにパートのある絵具を点描画のように置いていきます。隙間から見える暖色が豊かなニュアンスを与えてくれます。




















ヴェネチア P15号


形と色の組み合わせが明快な絵に仕上がりました。

現実の色の再現から離れて制作することに違和感を持たれる方も多いと思いますが、美術史からみると後期印象派のゴッホやゴーギャンからナビ派やマチスに至るまで、現実の色の再現というよりも、色の効果を論理的に考えて表現しています。今回のYさんの制作方法は、そのような絵の方向に向かわれる際の手掛かりなるのではないかと思います。


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