2014年3月5日水曜日

本の紹介 11 : 「絵画の保存」 ナショナル・ギャラリー・ポケットガイド 

今回紹介する本は、ロンドンのナショナル・ギャラリー・ポケット・ガイドシリーズの一冊、「絵画の保存」です。著者は、デイヴィド・ボンフォードで、日本語版は2010年に、ありな書房(1500円)から出版されています。


最近日本でも西洋絵画の修復に興味をもたれている方が増えていると思います。修復家の書いた本や、修復結果の報告書なども多数手に入る時代になりました。そのような中でこの本は、最先端の修復の現場が、どのような考え方や方法で修復を行っているかが、豊富な写真と共に分かりやすく解説されています。

洗浄作業













目次は下記のようになっています。

・保存の歴史
・絵画の素材と構造
・変化と劣化
・修復対保存
・現代の保存方法
・洗浄と修復へのアプローチ
・修復問題の考察

全79ページのポケットサイズのガイドブックですが、侮れない内容になっています。



特に興味深いのは、絵の洗浄と加筆の実態です。




右の2点は、スーラとラファエロの代表作の洗浄の例ですが、洗浄でこれほどまでに色彩が蘇るのに驚かされると思います。






















そして次の2点は、絵具の剥落の状態と加筆による修復結果です。











剥落部分が、補筆によって見事に見えなくなっています。
低圧吸引テーブル

ただこれを見ていると、美術館や画集で目にしている絵の、いったいどこまで本当の画家が描いたのか疑問にも思えてきます。


低圧テーブル













また、最新の裏打ちや絵具層の再定着の機械などが紹介されています。

パネル接合テーブル




























西洋絵画の展覧会に行くと、数百年前の絵がつい最近描かれたような綺麗な状態で展示されているのを見て、驚かされることがあります。そこには、画家自身の優れた技術に加え、後世の修復家達の地道な研究と気の遠くなるような作業があったのを、この本は教えてくれます。絵の修復に関心のない人にも、読んで戴きたい一冊です。



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