2014年3月24日月曜日

石膏デッサン : 面冠女神像

面冠女神像は、石膏胸像の中では難度の高いものです。

アトリエラポルトでは、過去に2人の方が挑戦しましたが、今回新たにAさんが挑まれました。Aさんはすでに美術大学で石膏デッサンを勉強されていますが、アトリエラポルトでは、特に形と背景に対する石膏の明度(Valeur)についてアドバイスをしました。


まずは、遠近法の枠を透して線で出来る限り克明に形を描いていきます。


線で形を表すことは非常に抽象的な手段で、陰影を追っていく石膏デッサンとは違って、描き込んでいってもリアルに見えてきません。すでに美大で陰影から捉える石膏デッサンを勉強されてきたAさんには、このようなやり方は違和感があったと思います。

しかし現実に存在する形を曖昧にせずに、背景(今回の場合は背景を描かないので紙の白)との明度関係を考えながら制作するには理にかなった方法です。



線で対象の形がすべて捉えられたら、現実の明暗を利用しながらモデリングして形にボリュームを与えていきます。この際背景よりも石膏像の明部を明るく感じさせるために、明部を暗部で囲むように進めていくことが大切です。
















面冠女神像 画用紙(650×500)に鉛筆



約30時間で完成しました。明部の明るさを保ちながら描き込んでいくのに苦労されましたが、ボリュームのしっかりした完成度の高いデッサンになりました。




右下は、Aさんが美大で描いた石膏デッサンです。印象的にはとてもよく描けていて魅力的なデッサンですが、よく見ると個々の形は意外に不明瞭です。今回のようなデッサンの方法を知ることは、これからのAさんの絵の制作きっと役に立つと思います。


ブルータス像
木炭紙に木炭











2014年3月14日金曜日

模写から自作へ

昨年ジョージ・ロムニーの模写をされたEさんが、その時と同じ技法を使って静物画を描かれたので紹介します。 模写の時のブログも参考に見て頂ければと思います。











ロムニー作「エマ・ハミルトンの肖像」
模写


また、モチーフを組むにあたっても、全体の色の配分をロムニーの作品と同じように考えてみました。


・いちご → 服の色  : テーマの色(トニック)
・テーブルクロスと水差し → 空と雲の色 : 統一色(ドミナント)
・背景の布とレモン → 木の葉、森 : 中間の色(メディアント)




始めにカッセルアースで、デッサンをとった後、明部をシルバーホワイトで描き起こします。

明暗が決まった後、固有色をつけていきました。



背景から仕上ていきます。パレット上では、できるだけ色を混色せず、下層のグレーを利用しながら、画面上での塗り重ねで狙った色をだしていきます。

主役のいちごは、バーミリオンとマダーレーキをベースに鮮やかさを保ちながら描き込んでいきます。


常にモチーフと見比べながら、影や反射光などの微妙な色合いの変化を追っていきます。














いちご F6号



絵具の本来持っている色の美しさを最大限に引き出した鮮やかな色調の絵で、これまでのEさんの絵にはなかったものです。模写で勉強された成果が表れた作品になりました。





「模写は個性を殺す」と言って否定される方もいますが、技術を学ぶ上ではとても有効な方法だと思います。










2014年3月5日水曜日

本の紹介 11 : 「絵画の保存」 ナショナル・ギャラリー・ポケットガイド 

今回紹介する本は、ロンドンのナショナル・ギャラリー・ポケット・ガイドシリーズの一冊、「絵画の保存」です。著者は、デイヴィド・ボンフォードで、日本語版は2010年に、ありな書房(1500円)から出版されています。


最近日本でも西洋絵画の修復に興味をもたれている方が増えていると思います。修復家の書いた本や、修復結果の報告書なども多数手に入る時代になりました。そのような中でこの本は、最先端の修復の現場が、どのような考え方や方法で修復を行っているかが、豊富な写真と共に分かりやすく解説されています。

洗浄作業













目次は下記のようになっています。

・保存の歴史
・絵画の素材と構造
・変化と劣化
・修復対保存
・現代の保存方法
・洗浄と修復へのアプローチ
・修復問題の考察

全79ページのポケットサイズのガイドブックですが、侮れない内容になっています。



特に興味深いのは、絵の洗浄と加筆の実態です。




右の2点は、スーラとラファエロの代表作の洗浄の例ですが、洗浄でこれほどまでに色彩が蘇るのに驚かされると思います。






















そして次の2点は、絵具の剥落の状態と加筆による修復結果です。











剥落部分が、補筆によって見事に見えなくなっています。
低圧吸引テーブル

ただこれを見ていると、美術館や画集で目にしている絵の、いったいどこまで本当の画家が描いたのか疑問にも思えてきます。


低圧テーブル













また、最新の裏打ちや絵具層の再定着の機械などが紹介されています。

パネル接合テーブル




























西洋絵画の展覧会に行くと、数百年前の絵がつい最近描かれたような綺麗な状態で展示されているのを見て、驚かされることがあります。そこには、画家自身の優れた技術に加え、後世の修復家達の地道な研究と気の遠くなるような作業があったのを、この本は教えてくれます。絵の修復に関心のない人にも、読んで戴きたい一冊です。