2014年11月14日金曜日

本の紹介 15 Charles Bargue “Cours de dessin”

左:英語版 右:フランス語版
本の紹介では、2回にわたって明治期の日本における手本帳を紹介しましたが、今回は19世紀の後半にフランスで使われていた絵手本、シャルル・バルグのデッサン集(Charles Bargue “Cours de dessin”)を紹介します。
この本は、長らく忘れられていましたが、2008年にアメリカのARCが復刻したものです。







当時のフランスでは、絵を学ぶ最初の過程として、このような絵手本の模写をしていました。

バルグ以外にも数多くの絵手本が存在していて、それらは銅版画や石版画で作られていました。右の写真は、アトリエラポルトで所蔵している当時の絵手本の一部です。


シャルル・バルグ作 「アーティストとそのモデル」 1878年

著者のシャルル・バルグ(1826/27~1883)は、今では画家として知る人は少ないと思います。しかし、この手本集は当時かなり普及していたようで、例えばスーラやピカソの残したデッサンの中にも、この手本集からの模写が認められます。また、日本にも明治時代初期にフォンタネージが持ってきて、工部美術学校の学生に模写させていたことが分かっています。











内容は3部からなっています。

第1部:石膏像によるモデリング
    
第2部:巨匠によるモデリング
   
第3部:自然にならったアカデミーのエチュードの準備のための木炭による練習

*ここで言う「モデリング」とは、絵画用語で対象を3次元的に表す際の形態の立体表現、また陰影による面の奥行き表現の意味で、原本のフランス語表記では「Modeles」となっています。

第1部からの抜粋(全70枚)

どの手本も、線で形を正確に捉えてからモデリングをしています。
とくに注目したいのは、光と影の境目を線で確定しているところです。現実の石膏像を見ると境界線を定めにくい所が多いのですが、あえて選択して決定することで、形が曖昧になるのを防いでいます。現実の現象的な描写ではないアカデミックなデッサンの描き方が分かります。

工部美術学校の学生による模写





















ピカソによる模写

















スーラによる模写


















ピカソによる模写






















第2部からの抜粋(全67枚)

ルネッサンスを中心とする巨匠の作品をモノトーンの石版画にしたもので、第1部より一層デリケートな明暗表現になっています。


ラファエロ
ミケランジェロ






















アングル
ホルバイン



第3部から抜粋(全60枚)

「Exercices au fusain pour préparer à l'étude de l'académie d'après nature」という長いタイトルがついていますが、要するにモデルを前にして描く人体デッサン(アカデミー)の課程の下描きとしての木炭デッサンの練習、つまり人体クロッキーと考えていいと思います。




















荻原守衛 模写
(飯田達夫 分析)
















左は右の手本を荻原守衛(荻原碌山:彫刻家1879~1910)が模写したものを、飯田達夫氏が分析したものです。シンプルな線で描いていますが、プロポーションやコンストラクションが的確であることが分かります。




・参照:碌山美術館報 第17号







このようなバルグの手本集の模写は、個性や発想を重視する現代の美術教育では否定される方も多いと思います。しかし長い美術の歴史の中では、西洋でも日本でも優れた作品の模写は美術を学ぶ最も重要な手段でありました。アトリエ ラポルトでは、このようなテキストから過去を学ぶことで、将来の制作への手がかりを見つけられるのではないかと考えています。



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